『いい音』とはなんなのか。誰かが決められるのか?
様々な『良い音』がある。多くは恣意的なものであるが、音楽的コンテキストから導き出される。
それではいい音とは何か?を考察していきます。
生音とオーディオの音
まず大前提として、生バイオリンや生ピアノを眼の前で聴いていい音だなぁというのとCDやレコードなどのオーディオを聴いて、いい音だなぁというのは別問題として考える必要があるということです。
今回は、後者のオーディオとしての『いい音』について扱います。つまり全体として、スピーカーから出てくる一つのまとまりとしての音がどうなのか?というのが、ここで扱う「いい音」かどうか?の問題になります。
オーディオの限界
オーディオとは一種の電気工学であり、つまりは電気や磁気などの力を利用して、音楽を録音再生する技術です。録音再生である以上、その音はリアルな音に限りなく近いかどうかが、音のクオリティを判断する原理的な基準になりますが、実際は様々な問題ゆえにリアルな、自然な音とは切り離して考える必要があります。
(自分を含めた現代人にとってオーディオから流れる音こそ自然な音であるという逆転現象が起きているように思います。)
つまり、オーディオの音はオーディオの音でしかない、ということです。本来ならば、原音に忠実に再生する、という命題があるんだけども、再生するというよりは、オーディオとしての電気的サウンドを作り出している、と解釈すべきだということです。
いろいろな『いい音』
ジャンルの数だけいい音があると言えます。そのジャンルごとの曲調、リズム、そして各楽器のバランスや音の特徴があるようにそのジャンルにふさわしい『いい音』というものがあるわけです。
そういう意味では『いい音』というのは極めて主観的なものであり、そうあるべきだと思います。自分がかっこいい音だなーと思えることが重要!
例えば、メタルのズンズンに鳴るギターが好きな人がいれば、ファンクのチャコポコとした軽快なギターの音が好きな人もいる。これはもう完全に好き嫌いの問題です。
メタラーから聴けば、ファンクギターはしょぼいですし
ファンク好きにすれば、メタルギターはうるさすぎます。
しかし、それを他人がどうこう言えることでは、ありません。本当にひとそれぞれ、というほかないです。各楽器のバランスもジャンルごとに各々違いがありますね。ギターが優先される音楽もありますし、ドラムやベースが優先されること音楽もあります。
そう考えると、いい音というものは、かなりあやふやなものであり、主観的な部分が多くを占めるということはお分かりいただけるかと思います。恣意的なものである、というのはこういうことであり、そもそも音楽とは恣意的なものですよね?しかし、無法地帯というわけでもありません。
で結局、CDの音ってどうなのか?
もうひとつのテーマについてです。上記の問題は『かっこいい音』という意味での『いい音』についてです。つまり、聴く人の主観に基づく判断についてでした。
これから話すのは、客観的な意味での『いい音』についてであり、CDはいい音であろうか?、という問題です。科学的な観点からの、つまりデータから判断できるいい音とはどういうことなのか?ということです。
結論から言ってしまえば、CDはいい音ともいえるし悪い音とも言える、ということです。CDはアナログ・オーディオに比較して、確かにノイズは圧倒的に少なく、そして周波数特性も人間の聴覚能力をカバーしてます。
16bit44.1kHzというデジタルフォーマットにおいて、PCMという方式で音を記録再生します。つまり客観的なデータ上においては、CDは優れたメディアであり、クリアな音であるといえます。(というのが建前なわけですが。)
しかし、個人的にはデジタルオーディオとして客観的に『いい音』というには少なくとも、24Bitは音質的に必要ではないかと思います。サンプルレートは、ポップミュージックなら44.1kHzで問題ないと思いますが。
根本的な意味での良い音というのはオーディオにおいてはよりリアルであるか?ということなわけです。そう考えると、デジタルオーディオ全体の中で考えると、CDは決して良い音というわけではありません。
今となっては、圧縮音源とハイレゾ音源のはざまで、中途半端な立ち位置になってしまっていると、判断することも出来るかもしれません。
客観的、主観的な良い音
いい音とは主観的なものでもあり、聴く者がいい音と思えるかどうかも大切な問題です。(正確なデータに基づいて、思い込みによる間違った判断は排除すべきですが)MP3の192kbpsで十分だと考える人も居ますし、ハイレゾじゃなきゃヤダ!という人も居るわけです。
デジタルオーディオ、デジタルレコーディングにおいての最大の問題は、客観的ないい音と主観的ないい音を混同してしまったことではないでしょうか?データ上、スペック上の良し悪しはもちろん大事ですが、人間の耳に合うように、ということが何より大事で、スペック上の数字が大きくさえなれば、広くなりさえすれば、デジタルになってクリアにさえなれば、とにかく良い!ということでは、なかったということだと思います。
デジタルvsアナログというのは大きなトピックですが、アナログサウンドの完全再現は無理でも、人間の聴覚特性に配慮した、デジタルオーディオとしての良い音は作れるはずです。
そして現在では、そうした観点から各種音楽制作ソフトも調整が加えられているように思えます。ソフトやプラグインの性能もどんどん良くなっていますしね。
別にCDの音自体に問題はありません。ただ自分としては、よりクオリティの高いデジタルオーディオである、いわゆるハイレゾオーディオをお勧めしますし、実際あればハイレゾで聴きます。(ただしハイレゾフォーマットに合うようにきちんと調整された音源)アナログレコードがいいなぁと思う人は、アナログレコードを聴けばいいだけです。MP3 320kbpsで十分という人は、それで問題ありません。
結局は個人の好みの問題で、選択肢の問題だと思います。ただし、主観的な判断基準と客観的な判断基準をごちゃ混ぜにしなければいいだけです。しかし、そう考えるとCDはもはや死んだメディアと考えるしかないと思います。ハイレゾ音源については「ハイレゾ音源は意味があるのか?」という記事をご覧ください!