結論から言うと、意味はあります。
ハイレゾにふさわしいフォーマットで録音され、ハイレゾに適した処理をされた音源は、ハイレゾで聴くに値する
ということです。
自分もよく利用している、ハイレゾ音源をダウンロード販売しているe-onkyo musicで興味深い記事が。
シュガー・ベイブ『Songs』がハイレゾで登場! 担当エンジニアが語る歴史的名盤のマスタリング
このマスタリング再発については、単なるリマスタリングとは又違うものとなっています。録音当時のアナログマルチテープを大滝詠一氏が90年代にトラック毎にデジタル化しており、それを最新デジタル機材に取り込んで、ミキシングから再構成したというものです。
上記リンクでは、そのハイレゾ化を担当したエンジニアの方のインタヴューが掲載されています。本記事とは別に読むと、ハイレゾについてまた理解が進むと思います。
というわけで、今回はハイレゾ音源についてです。ここ数年、巷で話題のハイレゾ音源ですが、果たしてその意味はあるのでしょうか? 上記事でも言われておりますが、必ずしもハイレゾであればよいとは限りません。
そもそもハイレゾとは何か?
CDのフォーマットは16bit 44.1kHzというものですが、これ以上の解像度を持つ音源をハイレゾ音源といいます。いわゆる24bit 96kHzというのがハイレゾ音源では多いですね。(192kHzや88.2kHzなどもあります)
bit depth(ビット深度)はデータ毎の数字の大きさを示し、信号の強弱の幅、つまりダイナミック・レンジの深さを示します。16bitだと0~65535までですが、24bitではそれ以上の規模の数が扱えます。デジタルオーディオは、オーディオ信号をデータ化して処理しますが、その信号を表現するためのステップ(マス目)がより多く、細かくなります。多ければ多いほど音質が良くなる、という理解で十分です。
kHzはサンプリング・レートを表し、一秒間にどれくらいデータ化するかを表します。サンプリングとは対象となるモノの全てではなく、一部をデータ化、標本化する手法です。オーディオにおいては、アナログ・データである電気信号をこのサンプリング・レートのタイミングで、ビット震度の範囲内の数値に変換するということになります。
また同時にシャノンの定理により、記録できる周波数(音程の高い低い)の範囲がサンプリング周波数で決まります。つまり、これも周波数が高くなるほどにより、音が良くなるという理解で大丈夫です。(この定理はCDの44.1kHzは人間の聴覚をカバーしているという根拠)
それぞれより大きい方が情報量、デジタル処理の細かさは増します。逆に、CDクオリティからさらに情報量を差し引いたものがMP3、AACなどの圧縮音源です。これらはPCMという方式ですが、DSDという、さらによりリアルに記録する方式もあります。(生音系の録音再生には最高のフォーマットです)
ハイレゾの強みとは
情報量が多いので、奥行きがあったり、各楽器の音がはっきりしていたり、全体がやわらかくて聞き疲れしにいなどの“強み”などあります。低音、高音がCDなどより余裕を持って感じられます。あとマスタリング時に過剰にコンプをかけなくても良くなります。
つまり、アンプやスピーカーの性能を生かすことができます。オーディオ愛好家的にはここが重要!マスタリングでコンプがあまりかけられていない音源をオーディオ機器のアンプのボリュームを上げて聴く!これが大事です。
(市販のCDだとアンプやスピーカーの性能依存を減らすために強めに音圧が上げられています。音源の時点で、音圧があればアンプの性能差による音質変化が少なくなる、という考え方によるもので一概に間違っているとは言えません)
ハイレゾでの音楽製作
2019年現在、音楽制作のほとんどが、コンピュータを中心とした環境で行われています。もちろん、コンピュータを使わない楽譜やハードシンセなどによる作曲はあるにしても、オーディオとして完成させるには、最終的にはコンピュータを使わざるを得ない状況です。
さて、音楽制作の観点からすると、現在のオーディオはハイレゾで製作されています。製作側にとってハイレゾとは自分たちが意図するサウンドそのものです。わざわざ音質を劣化させたモノを聞かせたいでしょうか。
デジタルは少なくとも、適切に保存されている限り、データとして劣化することはありません。なので、製作した音源とまったく同質のモノを売ってしまうこともできますが、それは権利上の問題から無理でしょう。
しかし、オーディオにおける忠実性をスタジオでアーティストや、プロデューサー、エンジニアが聴いている音に限りなく近い音質かどうか、と考えるならば、ハイレゾは意味があります。繰り返しますが、コンピュータ上でハイレゾ音質で製作されているからです。
以下の文章でも、ハイレゾは絶対的ではない、とも説明しますが、しかし、ハイレゾで製作されている音源ならば、出来る限りマスター音源に近い、32bitから24bitという程度のデータの圧縮、劣化に留めた音質を望むのは果たしてオカルトなのだろうかと問いたいです。
ハイレゾで作ったものをハイレゾで売る!
音が違うことは確か
まず90年代初頭のCDと現在のCDでは、音圧は別として、音のクオリティが全然違います。
これは聞き比べれば明白です。ものによりますが、CD最初期のものは音がペラペラで聴いていられません。(ただし、今聴いても遜色ないものもありますし、コンプで潰されすぎてない分、逆に90年代の音源の方がレンジ広くよい、というものもあります。)
これはエンジニアがデジタル・オーディオに不慣れだったということも、デジタル技術が不完全だったからということもあると思います。『デジタルは音が変わらない』というのは、かなり乱暴な言い方なのでやめましょう。技術は進歩しますし、結局は、どういう音をにするかは人為的なものですので。
よく『どーせ俺そんな耳良くないし!』という意見もありますが、きちんとした機材と、あとその情報量に対する『慣れ』さえあれば違いは誰にでもわかる、というのが自分の考えです。音質で音楽の価値が下がるわけではありませんが、出来る限り良い音で音楽を楽しむべきです。
あとはそれなりの機材をそろえられるどうかの各人の予算しだいでしょう。そして投資に見合うだけの違いがあるのか?という話にもなります。
マスタリング・エンジニアの大御所、Bob Katz(ボブ・カッツ)氏いわく性能のよいD/Aコンバータであれば、44.1kHzも96kHzも差はほとんどなくなる、とのことですが、そういう機材は値が張ります。
つまりは高すぎず、安すぎずという範囲ではハイレゾの方がいい!という判断も出来るというわけです。ではハイレゾであれば、必ずしもよいのかというとまた違うという話になります。
良い悪いとは別?質感の差
音が良いか悪いか以上に、44.1kHzと96kHzではまず音の質感がかなり違います。なので、そのフォーマットにあった調整、及び音作りが必要になります。
確かに重要な要素ではあるけれども、数ある音のクオリティを決める要素のうちの一つと考えるべきです。(特にサンプルレート。bit数は大きいに越したことはない)
つまり音の質を決める絶対的な要素ではない、ということです。今回のシュガーベイブのマルチトラックテープは、そもそも48kHzでデジタル化されていたようなので48kHzのままの方が、音の質感は変わらないということだと思いますし、そもそもアナログ録音といえども、このアルバムのレコーディングで使用されたのはそんなに高級な機材でもないので(失礼な!)
アナログ、デジタルにおけるハイレゾ
実践においては、デジタルとアナログではハイレゾが果たす役割が微妙に異なります。
アナログからデジタルへ
古いロックやポップスをデジタル化する場合、そもそものアナログマスターテープを高い解像度でデジタルデータ化、取り込んだ方が当然よい音になります。
良い音というのは、ここではそもそものアナログテープの音に近い、という意味です。勘違いされがちですが、オープンリールとも言われるアナログテープのサウンドクオリティは実はかなり高く、アナログなりのクリアなサウンドだったりします。もちろんテープ特有のヒスノイズ等はありますが。
そのオリジナルテープに近い音質を得るためには、より高い解像度でのデジタル化はある意味必然です。アナログからデジタルへと変換する最初の部分なのでここでより多くの情報を正確に獲得しなければならないからです。
CD化する場合は、そうしたテープからのハイレゾ音源をCDフォーマットに変換するわけです。昨今のリマスター音源の音質の著しい向上はここら辺にあります。リマスタリングについてはこちらの記事で解説してます。
デジタルからデジタルへ
前述したように、現在のデジタルでの制作環境ではハイレゾで製作が行われています。32bit44.1kHzや32bit96kHzでの、あるいはそれ以上のハイレゾフォーマットでの制作が主流になっています。そうした場合は最終的な音源が、24bit44.1kHz以上のフォーマットであるほど製作者の意図した音に近いのは言うまでもありません。
逆に16bit 44.1kHzで録音、ミックスした音源を単に24bt96kHzにアップコンバートしたからといってハイレゾだー!!ということにはなりえません。
個人的にリマスターが出てない古いCD音源を自分で32bit44.1kHzにアップコンバートしてDAWでリマスタリング!とかはやってますけどね。これは効果あります。
ミュージシャンがスタジオで聞いている音にできる限り近づける、という面においてはハイレゾ音源の意義が間違いなくあります。
まとめ!
以上のようにハイレゾ音源は決してオカルトなモノではなく、きちんと意味があります。
しかし、絶対的なものではなくハイレゾフォーマットにふさわしい、録音、音作りが必要になります。生楽器中心の音楽は、特にその恩恵が大きいです。個人的には、もうクラシックとかジャズはもうハイレゾでしか聴きたくないなぁ、とも思います。
あと、音楽家やミュージシャンこそハイレゾ音源で音楽を聴くべきだと思いますし、自分の音楽を高品質に伝える手段として、ハイレゾ音源を選択しない理由はないと思います。
ハイレゾ音源を鳴らしきる、それなりのオーディオ機材があってはじめてその真価を発揮します。ただし、きちんとしたハイレゾ音源であれば、そこまで高価な機材でなくてもハイレゾの恩恵はあります。最初はCDで聞いたあのアルバムをより良い音で聞きたい!というところから始めるぐらいのものでいいんじゃないでしょうか。
デジタル・オーディオについて、より詳しく知りたい方は↓こちらの本がオススメです!
ハイレゾリマスターの意味は何となくわかったような気がしますが、強・中・弱・切の違いは何ですか。
具体的に、私は旧いCDをよく聴き、低音を鳴らしたいのですが、その場合どれに設定したら良いのですか。
コメントありがとうございます。
すいません、リスニング環境が分からないのでなんとも言えないのですが、
再生ソフトか何かの機能でしょうか?(強・中・弱・切)
単純に出音の低音を増やしたいなら、スピーカーを変える、アンプのイコライザーで低音を上げる等のハード面の改善が考えられますし、
もし最新リマスターCDがあるのなら、素直にそれを聞いた方が低音や高音が豊かに収録されているというケースもあると思います。
興味深く拝読しました。
アナログ・サウンドのことを詳しく書くサイトやブログはありますが、なぜかdbxやDolby Aといったノイズリダクション機材をかませているかいないのかについて言及している文章は、SACDハイブリッド盤『月の光』のライナーに冨田勲が書いたものでしかありません。今のところ。
録音時にdbxを使っているマスターとそうでないテープではヒスノイズのレベルは異なり。ヒスノイズの音域を避けるためにアナログながら圧縮された音を「解凍」しますから、独特のクセを感じる人もいるでしょう。自分はカセットテープなのにヒスノイズ・ゼロであることだけで満足していたバブル世代です。
関係者なり本職でない限り、アナログ音はこの記事にあるように大多数はレコードで聴いていますが、最終MIXを経てLPレコードをプレスする間に低音が減少する現象を逆手にとってdbxは、ノイズリダクション機器とは別に、これも民生用でしたが、低音をブーストする機器も販売していたのに、こういうことに触れるオーディオ・マニアの文章にはまだ出会ったことがありません。
ロックやポピュラーの外タレ(古語ですね)が来日すると、日本版のLPを買うアーチストが少なからずいたのが昭和。ですから、この記事で言わんとされることは、よく分かります。
そんなプロ用ノイズリダクション・システムが存在しなかった古い超・初期のステレオ録音クラシック音楽CDでも、DSDマスタリングをしていたり、20bitマスタリングをすると、なぜかほとんど消えているヒスノイズには驚かされますが、あらかじめイコライザーなどで調整しているのか、DSDでは関係ないものなかについては無知な者です。
オリジナルのアナログマスターは同じでも、同じ機器で再生してリマスターしているとは思いませんし、カセットテープデッキが当たり前のように存在した時代には、再生ヘッドをクリーニングしたり、磁気テープですから、帯電対策用の機器でのメインテナンスをしていました。また、物理法則として、ビデオのようにタイムコードが無いテープは、オープンリールにしてもカセットにしても、ゴム製のローラーはすり減りますから、今ならスマホアプリでチェックかのうな音程のズレ、走行ムラを抑えるための「マスター巻き」といった、CD出現前にしていたたり存在していたものが、EMIのマリア・カラスの美しい高音域よろしく消されているかのように忘れられていますね。
LPの前にはSPレコードがあり、現存するものを複数選び、それぞれ状態のよい部分だけを繋ぎ合わせ、音程もそろえてCD化されているものもありますし(例、ローム)、大正から戦前にかけて歌舞伎役者が吹き込んだ、下座音楽入りの名台詞SPを繋ぎ合わせてCD化されたものもあります。役者の台詞回しが下座にのってる場合、音程が正確なのが当たり前の長唄三味線の演奏にも気配りしたりしているであろうことは素人でも想像がつきます。
アナログ(LP)かCD/SACDか、といった必要以上に現実をいりじって単純比較するの文章(このページのことではありません)には辟易しています。