Soundtoysによる、80年代のデジタル・ディレイを再現したPrimalTap(プライマル・タップ)について書いていきます。同じくSoundtoysのディレイ・プラグインであるEchoboyの解説記事も書いてますので、そちらもどうぞ!
何にでも使える万能なEchoboyに比べると、Primal tapはより個性の強いディレイ・プラグインとなっています。80年代デジタル・サウンド特有の色合いを活用したい場合に有効なプラグインです。
80年代のデジタルサウンド
80年代というと、デジタル・サウンドは普及し始めた段階であり、まだまだ発展途上の分野でした。80年代のデジタルディレイとしては、本プラグインのモデルにもなっているLexiconによる Prime Time(実際の発売は1978年)やEventideのDDL、U2のEdgeの代名詞でもあるKorg SDD-3000などが有名です。
これらで使用されているデジタル技術は、今現在のモノと比べるとチープなものです。そして、メモリのコストも高かっため、より長いディレイタイムを得るためにPrime Timeでは、ディレイ時間を2倍にするごとにサンプルレートを半分にする、というテクニックを使っています。
デジタルディレイは、音をデジタル録音(サンプリング)して原音より遅らせて発声することでエコーさせていますが、どのくらいの音質になるかはサンプルレートによります。つまり、サンプルレートが減るごとに録音できる周波数帯域が減っていき、原音からの劣化が著しくなります。
[ディレイ時間の倍率と音域]
1倍の時は12kHz
2倍の時は6kHz
4倍の時は3kHz
8倍の時は1.5kHz
という具合です。3kHzにもなると劣化が激しくなり、1.5kHzにもなると電話音声並みに劣化します。ただし、その劣化具合も使いようでキャラクターとして逆に活用も出来ます。ともかく、当時のデジタル技術はそのくらい制限のあった、ということです。
しかし、そうしたデジタル技術の問題を補うかのような潤沢なアナログ部のおかげで、初期デジタルのクリアながらも低解像度のボヤケ、リッチなアナログサウンドが合わさった独特なサウンドになっています。
使い道は限られる?
なので、そうした独特のサウンドを求める方には非常にオススメできるディレイプラグインです。ディレイ以外にもコーラス、フランジャーとしても使えます。ただ普通の、汎用的なディレイが欲しいという方は、アナログディレイ系ならEchoboyを、クリアなデジタルサウンドがいいなら、現代デジタル技術を使った普通のデジタルディレイがいいかもしれません。
80年代デジタルサウンドの独特の色合いは、現在でも十分に魅力です。そんなPrimal Tapの使い方を解説していきたいと思います。
Primal tapの特徴
AとBの二台のディレイが内臓されています。コレを左右に広げて、単純なステレオ・ディレイにすることも出来ますし、交互に鳴るピンポンディレイ、あるいは直列(Series)に並べて、二重に異なるディレイを掛けるということも出来ます。
アルゴリズム(ディレイ方式)
各ディレイ方式をアルゴリズムとして選択できます。クラシックモードをはじめとして、パラレル(並行)、シリーズ(直列)、ピンポンなどがあります。
モジュレーション、変調
Primal tapにLFOが搭載されているので、コレでディレイ音の音程を揺らすことが出来ます。波形もTriangle(三角波)、Sine(正弦波)、Square(矩形波)、Rampと四つあります。
AとBそれぞれにどれくらい深く、LFOは一台だけですが、モジュレーションを掛けるかを調整できるので(Depth)、様々な使い方が出来そうです。
Freeze(フリーズ)で驚きを
Prima tapの大きな特徴のひとつである、Freezeというコントロールをオンにすると、ディレイ音が減衰することなく永遠に鳴り続ける、という状態になります。オートメーションでこれをオンにして、各コントロールをウネウネ動かすと面白いかもしれません。
特徴的な音
言葉での説明では限界がありますが、やはり、Primal tapのサウンドは独特なものがあります。デジタルなので、クリアだけどボヤケた淡い輪郭。そこにアナログ回路によるウォームさが加わります。
最近の音楽だと、常に使うというよりかはポイントでアクセントとして使うのがいいのかもしれません。あえて、80年代の雰囲気を出す時はその限りではありませんが!
先ほど説明したようにMultiply(倍率)を変えると、音質が変化します。その変化を積極的に使った方が、PrimalTapを使う意義があると思います。
豊富なプリセット
Echoboyでも書きましたが、Soundtoysのプリセットは信頼できます。状況に沿っていろんなプリセットを試すだけでも、十分使えます。
各コントロールの概要
それでは、各コントロールについて解説していきます。関連のあるコントロールはまとめて説明します。Tweakボタンを押すことで詳細設定画面が開きます。
Algorithm アルゴリズム
どういう方式でディレイ音を生成するか、その方式(アルゴリズム)を選択します。AとBの関係性もここで決まります。
Classic(クラシック)はモデル元のPrime Timeの方式でAとBのディレイを両方に戻します。なので、より荒々しい音になりやすいですが、そこも魅力。Series(シリーズ、直列)はディレイを二度掛けする効果が得られます。Parallel(パラレル、並列)はAとBをそれぞれ独立したディレイとして扱います。
Criss-Cross(クリス・クロス)はAのディレイ音をBにフィードバック、BはAに戻す。という風にフィードバックを交差させます。Reverbはクラシックに近いですが、フィードバックを抑えた方式でロングディレイによる、リバーブ的なエコーに適します。Ping-Pong(ピンポン)は、Aから始まり、Bへと交互に発音させていくアルゴリズムになります。
Time, Beat, Link
ディレイのタイミングを時間、拍どちらに準拠するかを選択します。このプラグインの特徴とも言えますが、BEATS(ビート)は割合表示です。またAとBを同期させるかもLINKで設定できます。
Adjust
ディレイタイムの微調整を行います。微妙に遅らせることが出来ます。
Feed Back
ディレイ音をどのくらい再入力するか、つまり、どれくらいディレイのノビ、回数を設定します。
MIX, Output
入力音とディレイ音のバランスを決めます。AUXセンドで使う場合は100%にします。Outputについては、特に目的がなければAとB、それぞれ最大で問題ないです。
Filter, Roll off
PrimalTapにはローカット・フィルターとハイパス・フィルターが付いています。Roll Offで何に対してフィルターを効かせるかを選べます。通常は最終的な出力であるOutputですが、Feedbackにも設定でき、時間的音質変化を加えられるので、ロングディレイのサウンドに最適です。
Rate, Depth, VCO shape
ディレイ音のモジュレーション、ピッチの揺れを設定します。Rateは速さ、Depthは深さ、Shapeは掛かり方を決める波形を決めます。
三角波(Triangle)、サイン波、矩形波(Square)、Ramp(坂道状)の4種類。
Output pan, Phase
ディレイ音のパンニング(定位)を設定します。AとBで左右に広げて、ステレオディレイにも出来ます。Phaseは位相を逆にすることで、ステレオ感を強めたり出来ます。ただ、音同士が変に干渉してしまう場合もありえます。
まとめ!
以上で、PrimalTapの解説になります。繰り返しになりますが、豊富なプリセットがありますので、適当なプリセットを選んで微調整していくことで目的のサウンドを目指すのがよいと思います。