Soundtoysにおける変化球系ディレイ、エコープラグインであるCrystallizer(クリスタライザー)についての解説をまとめます。ディレイ音のピッチ変更、逆再生によるサウンドが特徴的なエフェクターです。
Granular Echo Synthesizerとされるように単なるエコーマシンというよりは、入力音から新たな音を生成して加算するエフェクターとしての側面もあります。
独自のコントロールに注意:Splice, Recycle
通常のディレイだと、エコー音をどのくらい遅れさせるかのDelay、どのくらい再入力してディレイ音を増やすかのフィードバックが、主なパラメータになっています。
CrystallizerではまずSplice(スプライス)というコントロールがあり、フィードバックはRe-cycle(リサイクル)というものに置き換わっていますので注意が必要です。
Spliceとは本来は結びつける、継ぎ目をくっつけるというような意味ですが、このプラグインでは入力音をどのくらいの長さで切り取って、エコー音とするかのパラメータです。Recycleはその名の通り、音のリサイクルでエコー音をCrystallizerにどのくらい再入力するかを設定します。MIDI Sync機能をONにすると、音符単位での設定が可能です。
通常のディレイモード(Forward)も用意されていますが、あえてCrystallizerを使うからには、やはり逆再生モード(Reverse)を主に使うことになると考えられます。逆再生エコーでは、特にこのSpliceの設定が重要です。 基本的には、そのフレーズにあった長さに設定すべきですが、極端に短く設定することで面白い効果を得ることも出来ます。
Threshold(スレショルド)がありますが、後述のGate, Duckingモードで使います。使わない場合は調整する必要はありません。
ピッチ、音程を変える
Crystallizerの大きな特徴が、入力音に対してエコー音のピッチを変化させることが出来るということです。逆再生モードで、オクターブ上にPitch shift(ピッチ・シフト)させると、他のディレイには無いようなサウンドになります。
セント(cent)単位で変えることが出来るので、かなり細かくピッチシフトすることが可能になります。+-10cent程度の微妙なピッチ・シフトを行うことで、Echoboyにあるような通常のピッチ・モジュレーションとは異なる、独特のピッチ変化のあるディレイサウンドを得ることも出来ます。
ピッチ変更は入力の度に行われるので、リサイクル(フィードバック)の量を増やすと、その都度にピッチ変化が起きるというのが特徴的です。
このピッチ変化を上手く活用することで、クリスタルの名に恥じないような幻想的なエコーサウンドを生み出すことが出来るようになります。
Gate, Duckingについて
エコー音の出方について、更に変化を加えることが出来ます。2つのモードがあり、Gate(ゲート)は入力がある時に音を出す、Ducking(ダッキング)は逆に入力が無い時に音を出す、というような仕組みです。
Gate/Duckのノブを左右どちらかに振ることで、効果を調整することができます。中央の場合は効果はなく、フラットな状態です。ノブの振り具合で効果を調整できます。
Gateはエコー音に対して、ゲートを掛けることができ、余分な音や余韻を取り除いたり、メリハリをつけることが出来ます。この場合、Attackは入力音量がThresholdを超えた際にどれくらい早くゲートを開くか、Releaseはゲートが閉じる際にどのくらいのスピードでゲートを閉じるか、によって音の伸びや余韻を設定します。
Attackは基本的には速めに設定すべきですが、少し遅らせたりすると、音に変化を付けられます。しかし、遅すぎると音が出なくなる原因にも。Releaseは基本、遅めにした方がいいですが、短くすることで極端な効き方にするということも出来ます。
Duckingは、入力音量がThresholdを超えている時にはエコー音が出ないというものです。設定にもよりますが、弾いている時は音が下がる(あるいは出ない)、弾き終わったらエコー音が浮き上がってくる、という効果になります。
音量の変化が生まれ、よりエフェクティブな音になりますが、上手く調整しないと聞き取りにくくなってしまうかもしれません。
Duckingにおいては、Attackは入力に対してどれくらいの速さでエコー音の音量を下げるか、Releaseはどのくらいの速さで音量を上げる(戻す)か、の設定となります。releaseは遅すぎると、音量が低いまますぎたり、Duckingが起こるまでに間に合わなかったり、ということがあるので調整には注意が必要です。
Ducking modeはどの信号に効果を掛けるか、というものでOutputは出力に対して掛かります。Feedback(フィードバック)は再入力の際に掛けるので、エコー音がより変化のあるものになります。Bothは出力とフィードバック両方です。
どちらも特に明確な目的がないなら使う必要がないものなので、通常はノブを中央にしておいて問題ありません。ただし、上手く使うと効果的なサウンドを生み出せる機能ではあります。
その他のコントロール
その他の設定項目としては、まずフィードバック・モードとフィルターです。
フィルターは音質の調整で、低音と高音をカットすることが出来ます。設定によっては、かなり高い音が出たりするので、耳に痛くならないようここで調整する必要があるかもしれません。
フィードバック・モードでは、再入力の仕方を選択できます。Mixedは通常のモード、ピンポンはステレオ左右を交互に行きかうモードで、Dualは左右が独立したモードです。
Pitch Offsetは入力音に対してのあらかじめの音程のズレを設定することが出来ます。あんまりやりすぎると音痴な音になります。
Splice Offsetは左右のエコー音の長さのズレで、Delay Offsetは発音タイミングのズレです。これらを上手く調整すると、より複雑で豊かなサウンドになります。
SmoothingはSpliceの間、つまりエコー音の同士の継ぎ目のクロスフェードのスピードを調整するためのコントロールです。エコー音同士の繋がりを滑らかにすることが出来ます。
まとめ!
使いどころの限られたディレイ・プラグインですし、その音源やフレージングに合わせた、より細かな設定をしなければいけない、という難しさもあります。
しかし、Soundtoysプラグインにはお馴染みの豊富なプリセットも揃っていますし、飛び道具の一つとして重宝するエコープラグインです。