
Mixはクリエイティヴな作業であり、決まった正解はありません。必ず上手くいくセッティングはないということです。しかし、なぜ“必ず上手くいく方法”がないのかは感覚的なものではなくて、論理的に説明できます。
同じ楽器であっても、他の楽器との関わり合いで役割が異なってくるので、ミックスにおける処理も変わる。
アコギをミックスの中で、どう鳴らすかは最も難しい課題のひとつです。そんなアコギの処理を例にどうミックスするのかについて、考えていきます。
ミックスに方程式はない?
よくMixにおいては、こうすれば上手くいくという公式のようなものはない、ということが言われます。
状況によって、曲、音楽のスタイル、ジャンルによって、最適なやり方が変わるということです。つまり例えば、じゃあベースをこのくらい、ギターをこのぐらいにして、後はボーカルにコンプレッサーをこれくらいかけて、あの有名なリヴァーブをかければ全てがうまくいく!、とはなりません。
作業内容を数量的に表すことができないというのが、ミックスを理解する上で大きな壁の1つです。 最終的には自分がいいと思える音にすればいいのですが、そうは言っても・・・というのが悩ましい部分ですね。独りよがりな音になってはだめな訳で。なにかしらの基準となるものが欲しいわけです。
音楽における”状況”の違い
状況によって音の処理が変わるとはどういうことか?まず2種類の状況を想定してみたいと思います。
- 弾き語りにおける、アコギのサウンド。
- バンドサウンド内における、アコギのサウンド。
まず、この2つの大きな違いは当然、その編成における楽器の数です。弾き語りによるサウンドは、今回は1人だけで、アコースティックギターとボーカルの2つの楽器しか存在しません。
それに対して、二つ目は一般的なバンドを想定し、エレキギター、アコースティックギター、ベース、キーボードとドラムといった編成とします。
この2つの状況において、アコースティックギターが、それぞれどのような役割を担うのか? 同じ楽器なのに、異なる状況において、その役割はかなり違ったものになります。
弾き語りでのアコギ
まず、弾き語りの場合を考えると、アコギの役割は和音だけでなく、リズムとベースといった数多くの役割を担うことになります。
つまり、ジャカジャカというパーカッション成分、歌を包み込むコード成分、そして和音のベース音を担う低音、といったアコギのすべての要素が必須になります。
バンドの中のアコギ
逆に、バンド編成におけるアコギを考えると、バンドにおいてはベースとバスドラムといった低音を主とする楽器があるわけです。それだけでなく和音を奏でる楽器がほかにも多くあります。(ここではキーボードとエレキギター)
低音はそれだけでも、多くのエネルギーを持っているので、過剰な低音はミックスを崩壊させます。(かといって少なすぎてもダメですが。)
つまり、この状況において、アコースティックギターにおける低音成分とは、多くの場合不要なものであり、ベースやバスドラとぶつかるのを防ぐために、カットしてしまう方が良いと考えられます。
それぞれの処理の方向性
こうして二つの状況におけるアコギの役割の差を考えると、まず弾き語りにおいては、録り方にもよりますが、低音成分をブーストするような処理が考えられます。ベースの代わりを務めるからです。
バンド編成においてはバスドラムやベースギターを邪魔しないよう低域成分をカットし、かつほかのギターや、ピアノと和音がぶつかり合わないように調整し、どちらかというと全体を包み込むようなジャカジャカと、軽ろやさと広がりのあるサウンドになるような処理をした方が良い、というような判断になります。
これはあくまで一般論として、こうした方がおそらく上手くいくだろうというものです。すべての状況においてこうすればよい、というものではないですが、ひとつの基準ではあります。とにかく音楽的状況から判断してEQやコンプなどでの処理が変わるのは、こうした判断によるということです。
全てを併せて1になるように
まとめると曲をしっかりと聴いて理解した上で、アレンジ、各楽器などの役割を考えて、各々音造りをしていこう!ということになります。
全ての音がなったときに100%になるようにする、ということであり、分母が増えても、全体は“1”であるべきです。本来であるなら、生楽器はみんな”1″であるべきですが、オーディオ的限界のために例えば、ヴォーカル0.5 アコギ0.5というようなバランスに音造りをしなければいけないのです。それが120%とか150%になってしまうと、崩壊してしまいます。
というわけで、mixにおける分かりにくい部分をアコギを題材に説明してみました。