音楽を演る者、聴く者であれば、一度くらいは聞いたことがある『グルーヴ』という言葉。いい言葉であり、ノリの良いことを表す用語です。本記事では、そんなグルーヴについての解説をまとめます。
グルーヴ感とは出すものではなくて、無意識に出てしまうもの
単なるカッコいい言葉ではないことを説明していきます!
目次 :
よくわからない言葉
よく音楽において「あのバンドのドラマーはグルーヴ感あっていいね!」などということが言われたりします。 逆に「あのバンドは上手いけどグルーヴ感が無くてダメだな」とかも。
しかし、この「グルーヴ」という言葉を具体的に、うまく説明できる人はなかなかいません。ノリが良い、というのはフワッとした説明ですし、リズムが心地よい、これも感覚的な説明ですね。気持ちの良いことだということは皆わかっています。ではもう少し、論理的な説明はできるでしょうか?
単にカッコいい言葉ではない
「音楽にまつわることだし、感覚的な部分もあるわけだから、言葉で説明するにも限界あるンじゃないの?別にいい意味って、分かってればいいんじゃないか?」
というような意見もあるかも知れないですが、グルーヴという言葉はすごく大切な言葉なので、やはり不正確な意味で乱用されるのは問題があると思います。聴く方にとっても演奏する方にしても、です。けっして中身のないバズ・ワードでもありません。
特に演奏者においては、リズムに関することは初歩的なことでありながら、根幹的な部分なので、早い段階で正確な意味で理解するべきです。そして、Grooveという言葉は決してファッション的な言葉ではないのです。本文ではモヤモヤとした部分を取り除き、明快な説明に挑みたいと思います。
『グルーヴ』とは何か!?
演奏におけるグルーヴとは・・・
人間の生理的な運動、行為に近いまでに熟練した演奏において、無意識的にでる有機的なリズムの揺らぎがもたらすリズム感
では、さらに細かく、分かりやすく解説していきます!
生理的なリズム
人間、いや生物はそもそも、固有の生理的なリズムを持っています。それは呼吸であったり、心臓の鼓動であったり、歩く速度だったりに反映されています。体内時計やバイオリズム、四季の移り変わりによる一年という時間の流れ等。生命としてのリズム感です。
グルーヴとは、こうした生理的なリズムと結びついていると考えられ、それらは基本的には一定です。もし一定でなければ、過呼吸になってしまったり、高血圧になってしまったり、不整脈になってしまいます。
体内時計が狂ってしまえば体調を崩したりもします。しかし、やはり生物ですので、一定といえども、多少の範囲でブレや揺らぎが生じます。我々の心臓は揺るやかに早くなったり、 遅くなったりしながらも、ほぼ一定のリズムを刻み続けています。そうした生理的なブレは生物にとっては自然なことです。
つまり、グルーヴ感を生み出す上で大事なのは、機械的な、正確な一定のリズムではなく、あくまで生物的な、有機的な一定のリズムだということです。そして、人間に本能的に備わっている、リズムを刻む能力を音楽用に鍛える必要があるということになります。
(ただし、機械的なビートがかっこいい、と感じる感性も人間は持っている、ということも心に留めておく必要もあります)
演奏という行為、どこを目指す?
では音楽に話を戻します。楽器演奏というのは、初心者にとっては不自然な行為です。ギターでFコードが押さえられないし、金管楽器などはまず音が出ない。バイオリンだと正しい音程が出せない、など。
しかし、修練を積んだ優れたミュージシャンは、まるで自分の手足のように操ることができるようになり、演奏そのものが、まるで、歩いたり、呼吸をしたりするのと変わらないほどに自然な行為になります。
まさに、感情込めて語るようにメロディーを弾けるし、あるいは一歩、一歩歩むようなリズムで演奏できるようになるのです。
すべての根源はリズム
音楽のスタイルはいろいろありますが、基本的にリズムは一定のまま進行します。(クラシックは遅くなったり早くなったりする、テンポの変動が多いですしし、そこが魅力ですが)
音楽にはいろんな要素がありますが、やはりリズムこそもっとも原始的な部分であり、一番に優先されるべき部分だと考えられます。多くの教則本でも、音程は後からいくらでも矯正できるから、まずリズムをはずさないこと!というような心構え、意識の持ち方が強調されていることが多いです。
次は表現としては強弱ですね。強弱もある意味リズムを形成する要素であり、原始的な部分です。原始的な部分はリズムや強弱で、理性的な要素が音程(平均律に沿った)や、和声ですね。もちろんすべての重要であり、うまい人は全部できているのですが、優先順位をつけるとしたらこうなります。 リズムがしっかりした上で、音程やらハーモニーができなければ意味がないのです。
グルーヴとは生理現象である
グルーヴとは・・・
リズム→メロディ→和声という優先順位、
[ 演奏における優先順位 ]
正しい姿勢、演奏フォーム→正しいリズム→音楽的な強弱、抑揚,正しく発生しているか →正しい音程→正確にフレーズは引けているか→総合的に曲を表現できているか →より高度なテクニックか?
これらを踏まえた上で目指すべきものです。音楽は、メトロノームが打つような正確なリズムを設定しますし、特に現代的なポップミュージックにおいては、より機械的な正確なテンポが要求されます。(BPM)
もちろんうまい演奏者は、そのような機械的なリズムに対応できますし、します。 しかし、そうした中でも、有機的な、より音楽的な演奏をしようとすればどうなるでしょうか。 先ほど述べたことからすると、自然なより音楽的な演奏というものの持つブレ、揺らぎというものは、機械的なリズム、ビートとは当然合致しません。 DAW上でのグリッドと録音された波形は、ほぼほぼ一致しません。しかし、そのズレこそが良いのです。
完璧すぎる、機械的なリズムの演奏は逆に違和感をもたらします。ただし、ブレが大きすぎれば単に走った演奏、もたった演奏、つまり下手な演奏になります。 訓練された演奏者は、そのズレを抑える能力も修正する能力も持っていますし、アンサンブルが破綻することはありません。 (鍛えられた人は、運動して鼓動が早くなっても、より早く心臓の鼓動が落ち着くということに近いかもしれません。)つまり、ほどよいブレこそがグルーヴの正体であるともいえます。
ここで重要なのは、演奏者自身はあくまで一定のリズムに沿って演奏しよう!という意識であるべきで、うまい感じでズラそうなどとは思ってはいないということです。 走った後にあがった息を整えようとはしますが、じゃあBPM120のリズムにしようとはしないでしょう。単に普段の呼吸にもどそうとするだけです。 つまりグルーヴというものは出そうとして出すものではないということです。これはものすごく大事です。 無意識的なごくわずかなブレ、自然な揺らぎこそがグルーヴの源なのです。
演奏者にとってのグルーヴ
なので演奏者の意識としては、あくまで一定のリズムを自分の中で刻んで、よりよい演奏を心がけるだけでいいのであって、 その結果としてグルーヴ感のある演奏になります。もちろん、自分の手足のようになるよう楽器を練習することが大事です。
正直、意識的にリズムをズラすように演奏することで生まれる濃いグルーヴもありますが、基本はあくまで無意識レベルでの有機的なズレが生み出すものであり、意識レベルではリズムに出来る限り正確に(ただし機械的ではなく)演奏しようとする心がけが重要です。
それが出来た上で、体内で正確にリズムを刻めるようになってから、応用として、意識的に演奏をカッコよくズラす、ということが出来るようになるので、注意が必要です。雑なズレはただの下手なだけなので。
最後に
以上が『グルーヴ』というものの論理的な説明です。ポップミュージックにグルーヴがなぜ誕生したかという点においては、歴史的には奴隷化された黒人が、白人支配下において、西洋音楽や白人音楽の影響を受けつつ、つまりヨーロッパ的な正確なリズムであったり、和声進行や形式がき っちりした音楽構成などといった要素を取り入れていったことが大きいです。
そうした中で、黒人特有なリズム感覚であったりが、そうした白人的な感覚とぶつかることで発露したものだと考えられます。もちろん、白人も黒人から影響を受けているので、それについては別の機会に。
USとUKという括りで、大まかに言ってしまえば、UKはリズムの正確さにはよりシビアですし (音程についても) USは、それに比べるとかなり大らかである、というような違いがあったりします。
つまり、どういうグルーヴ感を持っているのかは、その文化的背景で違ってくる、ということです。グルーヴとは、主に黒人音楽におけるリズム感を指す言葉ですが、どの民族にも独自のグルーヴ感があるように考えられます。
音作り関係の記事大変参考にさせていただいております。トランジェントと奥行きの関係、勉強になりました。
こちらの記事ですが、
グルーヴって単にタイミングだけの話じゃなくて、強弱やトーンを含めて、リズムの文脈みたいなものを指していると思います。
音楽のリズム的側面の内容、意味みたいなものです。雰囲気というか効果というか。
分かりやすい反証としては、グリッドぴったりでもグルーヴがあるから、四つ打ちは気持ちいいですよね。
でも単純に四つキック置いたらいいのかと言うとそうではない、という所にヒントがあるんじゃないでしょうか。
この言葉自体、曖昧というか非常に体験的な概念なので、分かるまでクリック錬しろ!で間違いないとは思いますが。
ご愛読、コメントありがとうございます!
例えば、『リズム感』『ビート感』や『グルーヴ感』はそれぞれ厳密には意味が違うはずですが、ちゃんとその違いを説明するのは難しいですよね。
とりあえず一人歩きしてしまってる感のある『グルーヴ感』を明確にしようと挑んだのが、このテキストでした。
音楽的な内容が同じでも(曲、フレーズ)、演奏によってグルーヴ感に違いが出るので、グルーヴ感は演奏によって生まれる、という前提、仮説を採っています。
一応、人間にとっては多少リズムにズレが合った方が自然に、心地よく聴こえるということに関して、生物学的なアプローチを採ったりもしました。
まぁ生物学の専門家でもなんでもないので、ここら辺はこじ付けに過ぎないかもしれませんが。
おっしゃられるように作曲レベル、フレーズレベル、サウンドによってもグルーヴ感が出るというのも、その通りだと思います。
ただ、ここらへんはリズム感、タイム感、ビート感、グルーヴ感が混ぜこぜになっている気もするので、そこをなんとかしたいです。
打ち込みに関しては、ぴったりと正確に打ち込んでいく人もいれば、手動でズラしたり、演奏で入力したりする人もいますよね。
ゆるいリズム感を好む人もいれば、きっちりと正確な機械的なビートを好む人もいるので、結局はその人のセンスであり、グルーヴ感なんだと思います。
なんで、そうした打ち込みのピッタリとしたリズムは『非人間的で、機械的なグルーヴ感』という風に、自分は解釈しています。ズレのないグルーヴということで。
本テキストに関しては生演奏を対象としている、ということになるでしょうか。
『分かるまでクリック練習しろ!』は少し誤解というか、例えば前ノリとか後ノリの話は結局リズムを前後にズラす、って話なんですが、ズラすことが先行しすぎると単にリズムが怪しい演奏になってしまうので、
そうならないよう本文中で強調した(しすぎた)ということになるかと思います。
本テキストは、無意識レベルでのわずかなズレが肉体的なリズムを生む、という調子で書かれていますが、実際には意識的にリズムをズラして、引っかかるような濃いグルーヴ感のある演奏が出来る人はいるわけで。
しかし、そうした人はまず正確なリズム感をもってますし、それに合わせて正確な演奏も出来る人で、リズムに合わせた演奏が出来た上でのズラして演奏しているはずだと考えています。
ただ、もちろん単にクリックに機械的に合わせようとする演奏もまた詰まらないので、そこで強弱が大事になるということなんだと思います。
というか、強弱をしっかり付けようとすると、よりリズムはズレやすくなるので、なおさら『リズムを正確に演奏しよう』という心がけが大事になるのではないか、ということで合わせることを強調しています。
このテキストはかなり前に書いたのをほぼそのまま掲載したものだったので、もう少し練り直したいですね。