最新デジタルリマスター!と題されて、過去の名作アルバムが再発されることがよくあります。
リマスタリングとは最新デジタル技術で
本来の(あるべき)姿を取り戻す作業。
しかしリマスターとは、そもそもいったい何なんでしょう?そしてその作業に果たして意味はあるのか?古いCDから買い換える必要があるのか?という疑問を含めて、今日はリマスター、リマスタリングについて考えていきます。
マスタリングについては、マスタリングとは何か?でまとめています。
世界的マスタリング・エンジニアである、ボブ・カッツ氏によるマスタリングについての解説 こちらのページは英語ですが、翻訳してみました!
目次 :
アナログテープからデジタルへ
そもそも古い作品ですと、大元のマスター音源はアナログテープ・マスターです。昔はこのテープからカッティングという工程を経て、ビニール盤がプレスされ、アナログレコードとして世に出されていました。
当然、今の世の中CDあるいはデジタル配信が主流ですので、そのアナログテープの音をデジタルデータに変換しなければなりません。アナログテープ自体は磁気による録音メディアですが、デジタル化するのはテープから再生された電気信号です。
電気信号はアナログ信号であり、それをデジタル信号に変換する必要があります。
しかし、いきなりCDやMP3などの形式でアナログデータをデジタル化するよりも、より高い解像度でデジタルデータ化(より高音質なデジタル・マスターを作成する)したのち、そこからCDのフォーマットにコンバート、変換した方が音質はより良く、オリジナルに出来る限り近いクオリティを保てます。つまりデジタル化の際の音質的な損失、変質が低く抑えられるわけです。
デジタル技術の進化
より高い解像度、と書きましたが80年代半ばにCDが実用化されてから今日まで、デジタルオーディオ技術ないし、コンピュータやデジタル技術そのものは日進月歩で進化し続けてきました。(上記の表は1970年代からのコンピュータの処理能力の進化についてのグラフです)
つまり、『より高い解像度』が時代と共に大きくなってきたということを意味します。それはオーディオよりも映像画質の進化を見た方がより分かりやすいかもしれません。(ゲーム機もファミコンからSwitch, PS4まで劇的に進化していますね)
4K > Blu-ray > DVD > VHS
当然デジタル処理も大きな進歩を遂げてきましたし、コンピュータの性能の上昇に伴い、音を取り扱うソフトの性能、種類は大幅に拡大されてきました。
アナログオーディオの真実
ここで気になるのは、アナログ・オーディオ技術の真の実力です。
もしアナログ・オーディオの音のクオリティが、デジタル以下であるならばアナログのデジタル化において、デジタル技術の発展でクオリティに差が出るということはありえません。
実際にはヒスノイズ、ワウフラッターといったアナログ特有の弱点は確かにあるにせよ、高価格高品質のアナログオーディオのクオリティは、われわれの思う以上にクリアなモノであるということです。やはりアナログでないと生み出せない音質というものがあるし、きちんと作られたものは、アナログの範疇でハイファイ(Hi-Fi)であったということになります。
Youtubeなどで「オープンリール」と検索してみるのいいかもしれません。そもそもアナログ・オーディオとデジタル・オーディオの単純な比較は難しいですが、アナログ・オーディオの方が早く生まれ、デジタルに比べ年月を経ているのだから技術的な積み重ねに差があったのは当然です。
リマスタリングの意義
よって、新たなデジタル技術によって、オリジナル音源の持つサウンドクオリティをより忠実にデジタルオーディオとして生まれ変わらせ、かつては不可能だったデジタル修正をも加えて、より高品質なものにする、という意味においてはリマスターは確実に意味があります。
90年代のCDと2010年以降のリマスターCDを聞き比べるとわかりやすいです。ただし今日のCDですと、過剰に音圧を上げすぎて音が潰れて、逆にサウンドクオリティが落ちてしまっている場合もあります。もちろんアナログオーディオにもコンプレッションは掛けられていますが。
ハイレゾ音源は過剰にコンプしてなかったり、そもそも解像度が高いので、ハイレゾで出てればそちらの方がオススメです。もちろんハイレゾだから、必ずしも良いわけでもありません。
またアナログテープは経年劣化するので、そういう意味では昔にデジタル化されたものの方がかえってよい、という場合もあるかもしれません。ここら辺がオーディオの難しいところです。
なおデジタルが主流の現在でも、新人の頃はちゃんとしたところでマスタリング出来る予算がなく、後年ちゃんとしたマスタリングスタジオでやり直した!というのであればこれもまた意味があります。しかし、当然マスター音源の質が低ければどうしようもならないこともあります。
古いデジタル録音でも、ある程度にはクオリティを上げることが出来る
ミックスからやり直す
The Beatles “White Album” 50th Anniversary(英語)
2018年にビートルズのホワイトアルバムが50周年、ということで2018年版のミックスを施した記念盤が発売されました。最近では、このように古い作品を単にマスタリングするのではなくミックスからやり直す、ということが行われています。
いわゆるDJカルチャーにおける“リミックス”とは区別するべきです。こちらの文脈でのリミックスとは、オリジナルのトラックを使いつつも、大胆にトラックを入れ替えたり、曲の構成を変えたりする、いわばアレンジ的趣向があります。
しかし、このミックスからやり直すというのは、あくまでオリジナルに忠実であるべきです。現存するマルチテープから、トラック単位でデジタル化し、DAWなどの最新デジタルソフトウェアを使って、ミックスを1から再構成する、という作業になります。
変わりすぎてしまう危険性もありますが、ミックスしきった後のミックスダウン音源をデジタルマスタリングする、という従来のリマスタリングよりは修正や調整を細かく行える、という利点があります。ステレオ2chマスタリングでは各トラックごとのコントロールは不可能だし、出来ることも限られているからです。
少なくとも、ホワイトアルバムにおけるリミックスは、オリジナルに忠実ながらも、より現代的な自然なサウンドとなっています。こうした試みは、マルチトラックテープが十分な質で現存している場合は、単純なリマスターよりも意義のあるものとして、今後も行われていくと考えられます。
まとめ
というようにリマスタリング自体には、きちんと意味があります。個人的な考えとして、古いロック、ポップスなどについては、特に2010年以降のリマスター作品は買う意義は十分にあります。デジタル技術の進化の恩恵を授かりましょう!(ただし、音質が変わりすぎて賛否両論になるケースも多いようです。)