mix(ミックス)で行われる作業にはどんなものがあるのか。今回は大きく二つのカテゴリーに分けて、それぞれの目的について書きます。なお、抽象論ですので、具体的にどんなプラグインをどう使えばいい、というような記述はないので、ご了承ください。
などもあります。
ふたつの狙い
英語ではprocessing“プロセッシング”と言われますが、レコーディングされた各トラックは、mixにおいて手が加えられ、何らかの音処理が施されます。
どんなに生音に忠実に!と言えども、録った音そのままというのは、一部の状況を除いて、ほぼないことです。そんな音処理は大きく分けて、次の二種類に大別できます。
- 修繕、調整
- 拡張、脚色
前者は音を整える、元の音を尊重しつつ修正、引き算なのに対して、後者は音を大きくする、太くする、派手にする、足し算です。どちらが良いという訳でなく、そのどちらも重要で、どちらに比重を置くかは、音楽スタイル、ジャンル、楽曲のコンテキストによってことなります。
また同じエフェクターであっても、使い方によって、このどちらにもなることもあります。これについては後述を参考。
修繕、調整
まずは、レコーディング時点で適切な録音になるようにすべきですが、それでも録音された音としては、一部の周波数が飛び出てしまって、こもっていたり、耳に痛かったりします。そういう部分はEQで削ります。
また演奏の都合上、楽器の性質上、音の強弱が極端にあるとミックス上問題があるので、コンプレッサーで、強弱を抑えます。
これらは全て、音をなるべく変えないように、在るべき音へと軌道修正することが目的であり、消極的な音加工です。“消極的”というのは、しなくて済むならしない方が良い、という意味です。
拡張、脚色
それに反して、こちらは積極的な音加工を目的にしています。
オーディオは原理主義的には、録音される音とリスナーが聞いている音はイコールで在るべきですが、現実にはそれは難しく(スピーカーの性能、部屋の音響など)、ならカッコよく加工した方が良くね?というのが、ポップミュージックにおける積極的音加工になります。
エフェクター使用だけでなく、同じ楽器、ボーカルを複数回録音し、それを重ねることで音に厚みを出す(ダブルトラッキング)なども、拡張としての音創りになります。生ドラムにサンプルを同期させて、厚みを出す、というのも、拡張テクニックのひとつです。
リバーブやディレイなどの空間系エフェクトは、人工的に残響を作り出すことで、空間感、広がり、奥行きを生み出します。サチュレーション系エフェクターは、音を変えること自体(原音とは異なる方向に変化させる)を目的としたエフェクターであり、そのまま色を加える、という風に言います。
上記に書いた、同じエフェクターでも使い方で方向性が変わるというのは、EQで低音を持ち上げて、重心を低くしたり、ハイを持ち上げて、煌びやかにしたり、アナログ系コンプで音が変わるほど過剰に潰したり・・・ということです。
つまり、EQは周波数バランスを変えることで、音を修正したり、派手にしたり、ということができる凄いエフェクターなんです。
なお、リバーブはそもそもマルチ録音におけるマイキングの弊害、つまりオンマイクのために残響音がない、というものを補うものである、という解釈もできるので、厳密な場合分けが難しい部分もあるかもしれません。
使い分けるには
先に書いたように、状況や楽器、アンサンブルの中での役割、フレーズによって、取るべき、処理方法は変わります。個々のトラックの処理と言っても、ほかのトラックの兼ね合いに左右される部分も勿論あります。
どちらかをどうやるかは自由です。しかし、基本的には修繕、調整→拡張、脚色という優先順位はあると思われます。順序を守りつつ、拡張後にmix全体のとの兼ね合いから、調整をやり直す、ということもあると思います。
注意すべきは修繕、調整をやる必要が無いならやらないという事です。全くEQなどが必要ない、という場面はそうそう無いはずですが、必要ならやる、という事です。削り過ぎれば音は薄くなります。反対に拡張、脚色はある意味際限なく出来てしまいます。やり過ぎは過剰演出になってしまいますし、音を劣化させる恐れがあるからです。レコーディング時点での対処が一番有効です。
まとめ!
というわけで、mixにおける音処理について書きました。mix中においては、今やっている処理が果たしてどちらなのか?何のためにやっているのかを意識することがひとつの指標になるような気がします。何にせよ、意味のないエフェクターは挿すべきではないし、意味があるならどんどんやれ!という精神が大事だと思います。