Knee(ニー)と読んで字の如く、膝を意味します。コンプの膝?と疑問に思うかもしれませんが、人間の耳に馴染む、より自然なコンプレッサーの動作になくてはならない重要な要素です。
“ニー”とは、コンプレッサーが
より”音楽的”な動作をするために重要な要素である。
アナログ・コンプの秘密
アナログ・モデリング系コンプレッサーの説明などにおいて、ソフトニー”soft knee”という単語を見ることは多いかと思われます。ハードニーからソフトニーに切り替えられる、というような説明も多いです。いったいニーってなんなんだろう?と誰しも最初は疑問に思います。
Kneeはratio、つまり圧縮率をあげるとコンプのグラフ上に現れます。それは図の通りで、まさに膝です。
他の記事(コンプとリミッターの違い)でも書いているように、コンプレッサーはスレッショルドを超えない限り、作動することはありません。つまり、ギリギリ超えない音量の音に対しては掛からないけど、ギリギリ超えた音に対してはコンプがかかる、という状況が起こり得ます。
これはスレショルド”threshold”を境に急激に線が折れているからで、この状態を“ハードニー”と言います。下図のようになりますが、折れ目を境に極端に分かれてしまっています。
入力音のごく僅かな差は、ヒトの聴覚上ではほぼ変わりない音量です。なので、そうしたコンプの掛かってない音と掛かっている音の差は、違和感になります。
それを解消するのが、ソフトニーです。図で角が丸みを帯びているのが分かると思います。アナログ的特性、あるいはエンジニアの調整による産物か、アナログコンプにはこうした特性があり、アナログコンプのサウンドの秘密のひとつです。
ソフトニーの働きについて
ソフトニーによって、スレショルド(threshold)付近が丸まると、どのように効果が働くのでしょうか。
ニーが丸まることで、スレッショルドを超えなくても、接近具合に応じて、弱いコンプがかかるようになります。つまり図で言えば黄色の太線はスレショルドを超えていませんが、緑のエリア、つまりソフトニーの効果範囲には届いているので、上の黄色の細線の傾き分だけ掛かります。
水色の太線は超えてはいますが、やはり緑の範囲内なので、黄色よりは強く、しかし正規のratioよりは弱いコンプが掛かるのです。紫の太線は、明らかに超えているので設定した通りの正規のratioでコンプレッションされます。
このように音の大きさに応じたコンプレッションが掛かることで、Threshold付近の音において、極端な音の変化が無くなります。ソフトニーのパラメータ(dB)を増やすということは、この図で言えば、緑の範囲を拡げる、ということになります。より広い範囲にソフトなコンプが効くようになる、ということです。
エンヴェロープ・カーブでも確認してみます。Thresholdは赤い線です。このエンヴェロープは赤線を超えていないので、通常であればコンプレッションは起きません。しかし、この図のようにKneeが設定されていて、その範囲内であれば、位置に応じたコンプが掛かることになります。
ニー以前に、スレッショルドの設定自体(どのラインからコンプが働き始めるか)がまず大事ですが、ソフトニーによって、人間の耳に自然な、より音楽的で段階的なコンプが掛かるということになります。
まとめ!
以上のように、ソフトニーは極端なコンプの掛かり方を抑制、緩和するためのものです。もちろん極端に掛けたい、極端なピークを抑えたい、という場合は別ですが。
何より、まずはその音源の状態によりますので、それにふさわしい選択、調整が必要です。現在のデジタル系コンプでも、大抵ニーが設定出来るので、より自然になるように、コンプの動作を調整できます。
うまく設定すれば、名器のアナログコンプの動作も再現できるかも知れませんが、アナログコンプのサウンドを得たい場合は、素直にアナログ・モデリングによるプラグインを使うのが楽です。