Sonnox Inflator を解説! [ レビュー ]

Sonnox Inflator

 Sonnox Inflatorを解説します。もはやレガシーな存在として、デジタルオーディオ界に君臨しているSonnoxプラグインですが、その中でもInflatorは音量感(RMSと関連)を稼ぐことのできる存在として、一時期ブームにもなりました。

 Inflatorとは『インフレ(Inflation)』という経済用語からも分かるように、膨ませる、増長させるという意味です。このプラグインには、まさしく良い意味で音を膨張させる効果があります。形を保ったまま膨らませるというイメージです。

 見ての通りシンプルすぎる構成のため、語ることはあまりないように思われます。ただ、その仕組みやどのように使うかについては、意外と分かりにくい部分もあるわけです。

なので、ひとつひとつ丁寧に説明していきます。

真空管で起こっていること

 Inflatorは、ずばり真空管アンプなどで起こる現象をデジタル・プロセッシングとして再構成したものです。そういう意味ではアナログ回路モデリングと言えなくもないかもしれません。

 ただし、デジタルに再現しているので、サウンドとしてはクリーンですし、必要以上にクセをつけないプラグインになっています。(後述しますが、Curveを上げるとファットな音にも出来ます)

 真空管で起こることは倍音加算です。入力音の奇数倍音(3, 5 ,7 …)が加算されることで音の音量感が増し、音がブライト(Bright)かつ、太くなります。

 真空管は音信号を増幅するために使われますが、原音を忠実に増幅するという点では、その過程で元々無い音が加えられるというのは本来はあってはいけないことです。しかし、原音から生み出される自然な倍音なので、人間の耳にとっては良い結果をもたらすことが真空管は音が良い、ということに繋がります。

 倍音が加えられると、高音域が加えられるだけでなく、音の波形の面積が広がります。通常、音量を上げる=ゲインを上げる、ということになりますが、この場合は倍音加算による波形の拡がりの分だけRMSが増大したことになります。つまり、ピークを変えずに音のエネルギーを増す、ということです。(ピークとRMSについては、音の大きさの指標。Peak(ピーク)とRMSについてを参照)

この働きをInflatorではクリーンに再現しています。

音量を上げたい時の問題点

 音量を上げるというのはオーディオ制作において、もっとも重要な課題です。なぜなら音が大きいと良く聴こえるのが、人間の聴覚心理だからです。音量を上げたい!という我々の欲求は、実際には音量感、音の圧を上げたい、というものです。これはRMSという指標に関連しています。

 ただ音量を上げたいのなら、ゲインを上げるかミキサーのフェーダーを上げればいいのです。しかし、現実には単純に音量を上げるとピークも上がってしまい、ヘッドルームを侵食します。最悪、0 dB を超えてクリッピングを起こします。ピークは抑えつつ、RMSを上げる、という処理が必要です。

 オーディオ全体の最終的な音量、ラウドネスはマスタリングで調整されます。ミックスの段階ではマスタリングへの余地を残しつつ、音量を上げるための処理をすることが重要です。つまり、0dBを超えないように、かつヘッドルームを残し、音量感を上げなければいけません。

こうした課題を解決するのが、このInflatorになります。

Inflatorの使い方

 ゲインを上げることなく、音量感が上がりますし、ギラっとしつつ太い音で存在感が上がります。しかし、そんな万能なプラグインなんてあっていいのでしょうか?何か副作用はないのでしょうか?大丈夫です。強いて言うならトラックによって、合う合わないがあるぐらいです。

EQとの比較

 EQは信号の位相をズラすこと(Phase Shift)で、狙った周波数の音量を変化させます。なので、良くも悪くも音質への影響は大きいです。Inflatorは自然にハイを伸ばすことができますし、ほどよく太く出来ます。

 太くなるというのは、加えられた倍音と原音の差音現象、つまり引いた周波数の音が加わったように聴こえるという人間の聴覚心理に基づいた現象で、これにより音が太く聞こえます。EQよりも影響は少ないです。

コンプとの比較

 コンプを使った音量を上げる方法は、大きな音を抑え、小さい音を底上げすることで実現しています。つまり、ダイナミック・レンジを狭めることで、ゲインを上げる余地を作り出すということです。

 しかし、コンプは音の波形、エンベロープをそれなりに変質させてしまいます。EQにしろ、音の変化に神経質になりすぎるのも問題ですが、影響をなるべく与えないように自然に音量感を上げるとなると、原音から作られる倍音を加算するInflatorの方に軍配が上がると思います。形はそのままに膨らませる、ということです。

 しかし、実際のミックスにおいてはコンプでピークを抑えることも重要ですし、その音変化も積極的に利用していくわけで、どちらも使い分けていく必要があります。


 というわけで、副作用はほぼ無いプラグインですが、かといって何にでも使ってしまうと、全ての音がギラついてしまうので、ここぞ!という部分や、ボーカルよりは目立たないけど大事なパート、スネアやベースなどの影の主役を引き立たせるのに使う、などがいいのかもしれません。

リバーブにも使える

 これはSonnoxの公式動画でも紹介されていますが、リバーブにInflatorを使うとリバーブを変質させずに厚みのあるサウンドにすることが出来ます。また、リバーブが多く含まれるような録音、ドラムのアンビエンスやオフマイク録音などに使うと、録音に含まれるリバーヴを引き立たせることが出来ます。

各コントロールについて

Inflatorはコントロールは少なくシンプルな構成ですが、Effectについてだけ注意が必要です。

EFFECT

 Inflatorによる効果を調整します。100%にするとオーバーロッドが無くなるという触れ込みですが、ヘッドルーム保護が叫ばれる中、ピークの調整は他のプラグインでやるべきだし、そもそも音がギラつきすぎてしまいます。55%~75%を目安にするのがちょうどいいはずです。

 効果が出る時は真ん中のメーターが黄色くなります。入力音が小さい過ぎる場合などは働かない場合もあります。その時はINPUTを上げるなどして音量のゲインを上げましょう。

CURVE

 Inflatorのキャラクターを設定します。通常は真ん中に設定されていますが、これはバランス・モードでもっとも使いやすい掛かり方をします。あまり音をギラつかせたくない場合は、ここからを下げると音はより穏やかな落ち着いた音になります。

バーを上げると、よりウォームでアグレッシヴな掛かり方になります。ただし、より激しい音が欲しい時は、他のよりアナログ色の強いサチュレーター、Soundtoys Decapitatorなどを使った方が良いかもしれません。

Clip 0 dB

 これをONにするとクリップしなくなりますが、そもそもクリップしないようにゲイン調整をするのが大事です。 ハイゲインな音を突っ込むのなら、他のプラグインを使った方がよい気がします。

BAND SPILIT

 Inflatorの処理を3つの音域に分けて行う、というモードです。音が濁ってしまう場合などに有効らしいですが、通常はOFFのまま使って問題ありません。

まとめと注意点!

 というわけでInflatorについて、まとめてみました。非常にシンプルですが、あって損はないプラグインです。ですが、元々の音をリッチにするプラグインなので、そもそもの音に問題がある場合は良い効果は得られない調味料のようなプラグインになります。素材の味が第一です。使いすぎがダメなのではなく、土台をしっかりさせた上で、適切な量を使いましょう。

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