パラレルコンプレッションとは?その目的、方法について

 パラレルコンプレッション(Parallel Compression)とは何か?パラレルとは並列を意味します。コンプレッションを掛けていないナチュラルな原音過激にコンプした音を適度に混ぜ合わせ、両者の良いとこ取りをしようというミキシング上のテクニックです。

(ニューヨークを中心に使われるようになったので、ニューヨーク・コンプレッションという別名もあるようです)

Parallel Compression Cover

 これにより、音の厚み明瞭さを両立させることができます。詳しく理解するためには、まずコンプレッサーを使うことのメリット、デメリットを知ることが大事ですが、その前にそもそもの音の成り立ちも解説していきます。

簡単にパラレル・コンプレッション!

先にパラレルコンプレッションを簡単に実践する方法を書いてしまいます。

MIXノブはパラレルコンプのためのもの!

 コンプのプラグインの多くには、図中のようなMIXノブがついています。これを使い、DRY音(プロセッサーを通してない音)とWET音(加工された音)のバランスを調整するだけで、パラレルコンプレッションを行うことが出来ます。

 値が0%だと原音のみ、最大値(100%)でコンプ音のみとなるので、その中間で良い塩梅になるポイントを見つけることが大事。ノブがついていない場合は、AUXでコンプに送り、バス・トラックで原音とコンプ音を混ぜ合わせる、という方法でも可能です。

 原音とコンプ音ではそれぞれ役割が違い、そうした役割が違う音を混ぜるからパラレルコンプは意味があります。原音側はナチュラルであればいいのでそのままでいいですが、コンプ音側はより極端に、潰された音である必要があるので、各設定に注意が必要です。

 Ratioは高めがいいですし、タイム設定もアタックは短めにリリースもやや短めに、というような極端な掛かり方をするようにします。自然なトーンや、アタック感は原音側に任せればいいのです、そのためのパラレルです。

音の一生、エンベロープ

Envelope Curve

 では、音の成り立ちについて、少し解説します。時間軸上の音量変化を表すのがエンヴェロープ・カーブで、シンセサイザーにおける音作りなどでも重要です。

 これは楽器の音を特徴付ける上で重要な要素のひとつであり、楽器によって異なります。また、演奏法によって変化することもあります。

 エンベロープ・カーブは音量の変化について、図で表したものです。しかし、楽器というのは当然、音量だけでなく、時間軸上で音色も変化します。具体的には、倍音構成、トランジェントです。


トランジエントについてはこちらの記事を参考にどうぞ。

トランジェントとは何か?基礎知識と解説!


 多くの場合、アタック部分において、音の輪郭を特徴づける成分が含まれ、サスティーンなどの後ろの部分に音程や音のエネルギーを司る成分が多く含まれます。

 コンプレッサーを上手く使うのにエンベロープへの理解は大切ですし、トランジエント成分については、デメリットを理解するために必須です。

音の輪郭はどこにある?

 人間がその音を認知するための成分は前述の通り、アタック部分に多く含まれます。ギターをピッキングした時の音、ピアノのハンマーが弦を叩いた瞬間の音などです。これがトランジェント音で、人間の音の認知において、おおきな影響を与えます。

 音量的に言えば、ピーク成分も同時に含まれることになります。ピークとはエンヴェロープ上で最大値になる部分で、ピーク成分とは短い時間でdBが大きく増減する部分です。

 コンプは多くの場合、ピーク成分に反応しますし、そこを抑えるために使われることが多いです。ピーク成分は、人間の耳にとっては痛い成分でもあります。

 現代人はより大きな音圧を求めます。デカイ音ほど良く聞こえるからです。音圧を上げるためには、ピーク成分を抑え、音圧を上げるための余白(ヘッド・ルーム)を作らなければいけません。そのためにコンプレッションが重要になります。

 音の大きさの指標。PeakとRMSについて、はピークとRMSについての解説記事です。コンプレッションとは、ピークを押さえRMS成分を上げるのが、大きな目的のひとつになります。

コンプのメリット、デメリット

 というわけで、コンプのメリット、デメリットについてです。コンプレッサーの基本動作についての説明は以下のページで行っています。

コンプレッサーが持つ5つの役割、使い方について

メリット

音の大きさを自動的に調整する

 フェーダー手動でも出来ますが、自動的にかつ、一音単位で調整できます。

大きな音を押さえ、小さい音を上げる

 音圧を上げる、つまりRMS成分を上げることができます。

音に厚みを出す

 音圧を上げる、以上にその音の周波数バランスに影響を与えるので、結果、音の質感も変わる。

デメリット

抑揚がなくなる

 音の大小の幅、ダイナミクス・レンジを圧縮するから。

音が引っ込む

 アタック音を抑えるので。デメリットではなく、狙ってやる場合もある。

音のメリハリがなくなる

 トランジエント成分を引っ込めてしまうので。


 最大のデメリットというのは、ピーク時に多く含まれる、アタック感やトランジエント成分もコンプが潰してしまい、音の明瞭感、輪郭が薄れてしまうということです。

パラレル・コンプレッションの意義

 というわけで、コンプレッションのメリット、デメリットを確認しました。これらは表裏一体であり、メリットだけを享受することは出来ません。

 そして、現代の音楽、サウンドにおいて、コンプレッションは不可欠なものなので、使わずには要られません。しかし、より激しいコンプを掛けようとすれば、デメリットも増大します。

 パラレル・コンプレッションは、激しいコンプによる恩恵を得ながらも、逸れによるデメリットを緩和する驚くべきテクニックです。始まりはモータウンのスタジオとも言われます。確かに60年代のモータウンの作品群は、現代からするとローファイですが良い音をしてます。厚みがアリながら、ハツラツさもあるというサウンドです。

 つまりは、コンプレッションした音としてない音を混ぜる、ということ。もし同じ音を混ぜるだけだと、単に音量が上がるだけで、オーバーロードしてしまいます。しかし、コンプされた音、特にアナログ系でコンプされたモノは音も大きく変化しているので、驚くような音のマジックが起こるのです。

 ピーク成分が抑えられRMS成分が増大した厚みのあるコンプ音と、ほどほどにピーク成分が含まれナチュラルなパンチ感のある原音を混ぜると、ナチュラルながら厚みのある音になります。

 ヘッドルームを確保するためにピーク成分が多いナチュラルな音は、ゲインを上げられない。コンプした音は音圧も高いし、ゲインを上げる余地もある、だけど、音が引っ込んでしまって物足りない・・・。じゃあ、この二つを混ぜてしまおう!!というのは、スゴイ発想だとは思いませんか?

何に、どう使う?

 ボーカルに厚みを出す。ドラム全体に掛けて、厚みを出しながらも、メリハリのあるサウンドにする。ミックス全体に掛ける。あらゆる楽器やパートに使うことが出来ます。マスタリングでも、音圧と輪郭の両立に最適です。

 良いとこ取りなので、デメリットはほぼないですし、単にコンプをかけるよりは自然な音になるので、惜しまずに使っていっていいテクニックです。

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