音の大きさの指標。Peak(ピーク)とRMSについて

Peak(ピーク)RMS、これらはオーディオにおいて、音の大きさを表すのに使われる二つの指標です。

Peak and RMS

 音が大きければ良く聴こえる、というのは人間の聴覚心理において重要な特性のひとつです。だからこそレコード産業の誕生以来、いかに大きな音を出すかという音圧競争、すなわちラウドネス・ウォー(Loudness War)が勃発してきました。

 音の大きさをどう扱うかこそがミックスの最大のテーマのひとつである、といっても過言ではありません。(楽器間の音量のバランス、曲の進行における音量変化など) マスタリングも最終的な音圧を獲得するための作業がメインとなっています。

 音圧を如何に上げるか?という点からザックリ言ってしまうと、ピークを抑えて、RMSを上げるのが、いわゆる我々が音圧が高い!と感じるサウンドを得るための手段になります。しかし、実際はそれほど単純なことではありません。

 今回はMixingの観点から、この2つの指標をどう扱っていくか、そしてmixにおいて音の大きさをどうコントロールしていくか、についての解説をまとめていきたいと思います。

ほどよい音圧を得るために、ピークとRMSを理解しよう!

簡単なピークとRMSの比較

先にピークとRMSについて、簡単な比較を済ませます。

Peak - RMS
瞬間的な大きさか、エネルギーの総量の平均値か

 ピークとは音量の瞬間的な大きさを表します。Peak(ピーク)の名の通り、音量の頂点、最大値を表すための指標になります。RMSは音の持つエネルギーを平均した値であり、音量の連続性や持続性を評価する指標です。

 ピークはそのシステム(オーディオ機器、ソフトウェア)で計測される、単位時間ごとの単純な音の大きさである一方、RMSは人間の耳が感じる音のエネルギー、つまり音圧と結びついています。

ピークの高い音とRMSの高い音、どちらが大きい?

 ピークが大きい音は、アタックが強い音と解釈され、RMSが大きいと音圧が高い音、というように解釈されます。

High Peak VS High RMS
Peakが低くても右の方が、ノビのある音に聞こえる

 ピークは大きいけどRMSは小さい音は、例えば、スネアなどのパーカッシヴな音なので、瞬間的には大きいけど瞬時に減衰してしまい音の伸びはないので、ミックスに埋もれてしまうかもしれません。

 シンセベースのようなピークは高くはないがRMSは大きい音は、ミックス内ではそれほど目立たないけど、安定した音のエネルギーを感じられる、パワーのある音となります。

 ピークが大きすぎると場合によっては、耳に痛い音になり得ます。そして、音量の変化が極端なので、ピークが極端だと、ミックス上では安定して聴こえない、ということにもなります。しかし、ピークがあるからこそ、アタック感や音のメリハリが生まれているということも忘れてはいけません。

 RMSはいわゆる、音圧と呼ばれる音のエネルギー感と結びついている指標で、音圧を上げるということはRMSを上げる、というコトになります。

最大値は0“ゼロ”

 昨今のデジタル・オーディオにおいて、音量の最大値は0 dBFS(デシベル・フルスケール)ということで決まっています。16bit以上のオーディオであれば0dB以上の大きさも仕組み上出せますが、それでも区切りとしては0dBまで、ということになっています。

0dB > -6dB > -12dB > -18dB

 という風に、0dBを基準としてマイナス方向に音が小さい、というルールなので注意が必要です。そして、Bit Depth(ビット深度)が大きいほどこの0からの深さが広くなります。つまり、より音の強弱の幅が広がり、滑らかになるということです。

Peak Reduction

 音の大きさの管理でもっとも重要なことは0dBを超えない、ということ。ミックスにおいては0は超えないのは当然として、マスタリング時における余地を残すためにピークは-3dBまでに抑える、というような余裕を持たせる必要が出てきます。Head Room(ヘッド・ルーム)を確保する、ということです。

 つまり、ミックス段階においてはヘッドルームを確保するために、ピークを抑えることが重要になります。それでは、ピークとは何でしょうか?

ピークとは瞬間的な音量

 ピークとは、デジタルオーディオで言えば、サンプル時間(44.1kHzなら1/44100秒)ごとに計測される音量です。ピーク成分とは突発的な大きい音、増減の幅が大きい音になります。ドラムなどのパーカッシヴな楽器がピーク成分を多く含みます。

 波形をDAWなどで見れば分かり易いですが、ぴょこんと飛び出している部分がピークです。つまり、その一音において、一番音量の大きな部分がピークと呼ばれます。このようなエンヴェロープカーブの中の頂点としてピークは、指標としてのピークとはまた別であることに注意が必要です。

 ピーク成分が無い、あるいは少ないという音もあります。ヴァイオリンなどの擦弦楽器はスローアタック奏法、つまり弓を当てるチカラを徐々に強めることで、だんだん音量が大きくなるという音を出せますが、こうしたサウンドはピーク成分がありません。 逆にピチカート奏法は、ピーク成分の多い演奏法です。

ピークを抑えることの功罪

Peak Reduction
ピークを下げることで0dBを超えないように音量を上げられる

 音圧を上げるためには、ピークを抑える必要があります。ピークを抑えればヘッドルームが生まれ、音圧を上げる余地が生まれるからです。単純にピークが強すぎると、人間の耳に不快な痛い音になってしまう、ということもあります。

 ただし、単純にピークを下げればいいわけでもありません。ピークが発生する、つまりアタック時(発音時)にはトランジェントと呼ばれる音成分も発生しているからです。

詳しくはトランジェント Transient とは何か?基礎知識と解説!でまとめています。

 ここで簡単に言うと、トランジェントは音の輪郭を司る成分です。つまり、ピークを抑えすぎると、そこに含まれるトランジェントも引っ込めてしまい、音のメリハリが失われてしまう場合があるということです。

 トランジェントを増減するツールもありますので、コンプとこれらを使い分けることで、ピークを抑えつつ、トランジェントはしっかり出していく、というような処理は可能です。

 ピーク成分の多い音とそれをコンプしてRMSを増大させた音を混ぜ合わせることで、音圧を得ながらも音の明瞭感、パンチ感をあるサウンドにするテクニックとして、パラレル・コンプレッションというワザもあります。

RMSとは?

Root Mean Squareの略になります。直訳すると、二乗した値の平均値の平方根、です。

 ピークはそのシステム(オーディオ機器、音楽ソフトウェア)における単位時間ごとに計測される音量ですが、RMSはそれと異なり、それよりも長い一定時間内の音量変化を計算して求める音量データになります。

 人間は1/44100秒というような非常に短い時間で音量を捉えていません。例えば一秒前後の音量をまとめてその平均を一つの音の大きさと感じます。人間の聴覚はこうした特性があり、RMSはそうした人間の音量の感じ方と合った指標です。

 よって、RMSは単位時間ごとに計測された音量を次のように計算します。

6, 5, 12, 7, 3, 11, 8

それぞれを二乗します。

36, 25, 144, 49, 9, 121, 64

全部足して、個数(ここでは7)で割って平均値を出します。

448 / 7 = 64

で、64の平方根は8なので、これらの値のRMSは8となります。

 瞬間的に大きな音(つまりピーク)があったとしても、一定時間枠内のその他の音量が小さければRMSは低くなります。つまり、一定時間内で音量が安定している方がRMSは高くなり、ミックスにおいてはRMSが高い方が音量が大きく聴こえる、ということになります。

MixにおけるピークとRMS

 ミックスにおいて、音圧を上げるための処理というのはピークを抑え、RMSを上げるということになります。音量を調節する道具として、コンプとリミッターがあります。これらのツールを使い、適切に調整することが重要になります。

 先述したようにピークにはトランジェントが含まれているので、場合によっては、ピークを抑えるとトランジェントも引っ込み、音の輪郭が失われてしまうかもしれません。逆にトランジェントが強すぎる場合は、トランジェント用のプロセッサーでトランジェント自体を調整する必要があります。

一定の範囲内に収める

 ミックスで音量のバランスを取るというのは、いかにそれぞれを大きくするか、というよりも相対的な音量を整えるということが重要です。まずはトラックごとに許容される範囲にダイナミクスを押さえること。そして、バランスを保ちながら、より聞き取りやすいようにRMSを上げる、ということが大切になります。

 なぜイコライザーやコンプレッサーを使うのか?でも書いたように、オーディオの再生能力や許容量には限界があり、トラックごとに許される音量のダイナミクスの範囲は限られています。どのくらいの幅をとれるかは、アレンジや楽器編成などにも影響されますし、音楽スタイルや曲によって変わることもあります。

 音楽において音の強弱は、より良い音楽的表現に不可欠ですが、そうしたオーディオ上の制約や問題により、ある程度狭めたりしてコントロールする必要があるということです。

 各トラックの段階で、ピークを抑えつつ、ミックスで埋もれないように程よくRMSを上げる、グループでまとめるバストラックにおいても、同様に調整。そしてマスタートラックで、マスタリングに影響が出ない程度、コンプを掛ける等。マスタリングで同様に処理して、最終的な音圧に上げていく、というような流れがあるわけです。

 いくつかのステップの中で少しずつ調整していくことが重要なので、マスタリングの時にまとめてやればいいやー!ということではなく、その段階で必要な分だけの処理を積み重ねていくことになります。  

音的によるエネルギーの差

 音程、周波数の高低によってエネルギーは異なります。低音の方がより強く、かつ人間の耳が低音を聞き取るには、より大きな音量が必要なので、バランス的には低音はなおさらミックス内のバランスを大きく占めることになります。

 つまり、音量をコントロールする、特にRMSを扱うということは、本質的には、如何にミックスにおいて低音をコントロールするか、ということになります。

音楽制作におけるラウドネス曲線について

 ラウドネス曲線というのは、周波数ごとの人間の耳の聞こえやすさを表す曲線です。この曲線を見れば、人間の耳が低音を聞き取りにくいか分かります。

時間的変化、飽きに気をつける

 また、常にRMSが高ければいいわけではなく、ある程度の変化があった方が楽曲全体のメリハリは付きます。なにより、RMSが常に高いと飽きますし、慣れてしまい、大きい音に聞こえなくなってしまいます。

 なので、変化しすぎてもダメですが、一定の範囲内にコントロールしながら、抑揚を付けていくということもミックスの中で必要になります。その場合は、オートメーションなどを活用することも出来ます。

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